カブ エンジン分解整備 2024年

エンジン分解整備

エンジン整備が長くなったので独立した。

2024年4月
 いよいよエンジンに手を着ける。予定する作業項目。

  • シリンダーヘッド整備
  • シリンダーボアアップ
  • カムチェーンおよびテンショナー/ガイドローラー類交換
  • オイルフィルタースクリーン/遠心フィルター清掃
  • その他 付随する作業

分解

 カムチェーンテンショナーを触るために左の発電機側を分解。フライホイールを外すところで、持っているプーラーが合わないことが判明。買うしかないか。キタコ製をヨドバシカメラに注文。
 いったん発電機側のカバーを閉めて、シリンダー/シリンダーヘッドを外すことにする。ヘッドの各カバーを外して、圧縮上死点の位置でカムシャフトスプロケットを外す。貫通しているスタッドボルトのナットと、シリンダーとシリンダーヘッドをつなぐボルトを外す。プラスチックハンマーで軽く叩くとシリンダーヘッドが外れた。シリンダーとクランクケースをつなぐボルトを外すとシリンダーが外れるはずだが、プラスチックハンマーでたたいても外れない。念のためにパーツリストを見たが、他にボルト類は無さそう。シリンダーとクランクケースの隙間に、ウエスを巻いたマイナスドライバーを入れてこじったら外れた。

マフラーのスタッドボルト外し

 一本が固着していた。さしあたり作業の障害にはならないけれど、気になるので外しておきたい。ダブルナットを掛けて、ガスバーナーで根元を炙る。ナットをバイスプライヤーでつかんで回すが、ナットが回る。スプレーオイルをかけてふき取って、少し時間をおいてやり直し。三回目で外れた。よかった。

ヘッドの分解と洗浄

 ロッカーアームとカムは簡単に外れた。バルブスプリングコンプレッサーを持っていないので、12mmソケットレンチの頭を床に置いて、コッター側を押し付けてスプリングを縮めて外した。
 ヘッドの燃焼室側は見事にカーボンが堆積している。バルブを付けたままエンジンコンディショナーに浸漬。一時間くらい漬けてマイナスドライバーで擦ると、思いのほか簡単に取れた。
 バルブを外してパーツ用洗剤に浸漬。モノタロウさんのパーツクリーナーを使っていたが少なくなったので、今度はサンエスさんのメタルクリーンαを買った。今回はミックスで使った。一時間くらいしてブラシで擦ったら、概ねきれいになった。排気周りにブラシでは落ちないカーボンが残っている。もう一時間漬けて、マイナスドライバーでカーボンを落としてからブラシをかけて終了。バルブは耐水ペーパーで残ったカーボンを落とした。水洗い・水切りしてスプレーオイルを吹いておく。

キャブレターの雌ねじ修理

 このPZ19、材質なのか加工なのか雌ねじが壊れる。フロート室を留めるねじは早々に壊れて修理した。セッティングが決まらなくて分解・組み立てを繰り返したのが直接の原因とは思うが、それにしても壊れるのが早い。
 まだ壊れてはいないけれども、コックを留めるねじも怪しいので予防的に修理した。フロート室のねじと同様に貫通しているので、ナットを載せて接着剤で固定。接着剤はJ-B Weld。こういう場面で昔は並のエポキシ接着剤を使って、すぐに割れたりはがれたりして困った。J-B Weldなら熱にも溶剤にも強い。これを知ってからは条件の厳しいところには必ず使っている。

キャブ フロート室のガスケット交換

 ガソリンが漏れて、その時はガスケットを裏返して止まった。ガスケットがダメと思ってNTB製の互換品を買っておいた。サイズはぴったり。PZ19に付いていたガスケットは、断面が変形してガタガタになっている。漏れが止まってくれるといいな。



バルブスプリングの長さ

 自由長の限度はIN/EXともに、インナー31.2mm/アウター34mm。現物はインナー31.5mm/アウター35mmで限度内。

バルブ擦り合わせ

 バルブたこは持っていないけれど、ありあわせでなんとかした。めったにやらないことで、多少手間がかかっても構わないと思って。バルブの軸にホースをつないで、引っ張る/回すための取っ手として使った。作業性悪いけれども、単気筒2バルブだから苦にならない。

 INは少しやったらきれいになった。EXはカーボンをたっぷり噛んでいて、しつこくやらざるを得なかった。初めは手でやっていたが、らちが明かないのでホースの先に電動ドリルをつないで擦った。まだ少しカーボンを噛んだ跡が見えるけれども、削り過ぎて幅が広がるのもどうかなと思って控えめにした。カーボンが大量に堆積していても機嫌よく走っていたのだから、こんなものでいいだろう。EXバルブシートの燃焼室側がデコボコでちょっと嫌だが、この修正はカッターが要るからできない。
 当り幅はIN側:約1.4mm、EX側:約1.3mm。サービスマニュアルによると、当り幅の限度は1.6mmとのこと。IN/EXとも限度内なので、これで完了とする

カムシャフトのベアリング

 そのまま使うつもりだったのだけれども、改めて見るとベアリングにがたつきがある。特に小さい方は目視で外輪が動くのが見える。汎用部品で買えば安いものなので換えることにする。
 ベアリングプーラーは持っていない。あり合わせでやってみる。汎用ブラケットと板スパナとボルト・ナット・ワッシャー。最初ブラケット一枚でやったら曲がってしまった。二枚重ねたら上手くいった。

 試行錯誤で時間がかかったが、何とか外れた。ベアリングを注文しなければ。

 ベアリングが来た。モノタロウブランドの中華ベアリング。HCH製とC&U製が来た。純正は小さい方が片Z、大きい方が開放型だけれども、両方ともZZを買った。シールドの隙間から油が入っていくだろう。
 写真の開放型はクラッチ用。

シリンダーキットが来た

 ヤフオクで買った50mmシリンダーキットが来た。JH70対応のボアアップキットとのこと。見た目は良い感じ。シリンダーにピストンが素直に収まっている。中華キットで時々見かける、きつくてピストンが入らない、というようなことが無くてよかった。
 ピストンリングにはD/DYの刻印、ステムシールにはSDKのマークあり。
 念のためにシリンダー合わせ面/ピストンスカート/ピストンリングのエッジを磨いておいた。

ステムシール

 シリンダーキットにステムシールが入っている。ステムシールは別に買った腰上/腰下用ガスケットキットにも含まれているのだけれども、現物を見てどちらを使うか決めようと思っていた。シリンダーキット付属は「SDK」マーク、ガスケットキット付属は「JAPAN」マーク。出所不明の(たぶん)中華パーツでJAPANと言われても...。色はどちらも緑。画像を検索してみると、ミニモトさんが売っているものに、よく似たJAPANマークがあった。SDKマークの画像は見つけることができなかった。さて、どっち。

シリンダーヘッド組み立て

 ステムシールはSDKマークを使うことにした。バルブコッターを入れるのに苦労した。バルブスプリングコンプレッサーを持っていないので、ソケットレンチでスプリングを押して入れる方法を試みた。なかなか入らない。このやり方はダメなんじゃないかと思いつつ、でも他に方法はないし、何度もやって何とか入った。片方入って自信がついたせいか、もう一方はすぐに入った。一気に強く押し込むと入りやすいように思う(たぶん)。
 ロッカーアームとカムシャフトを入れて完成。

セルモーター

 予定外だが、ベアリングが来るのを待っている間にセルモーターの整備をした。ボルト2本で止まっていると思って、プラハンで叩いてもびくともしない。よく見たら、もう一本あった。
 ギアボックスが開かない。どこかにねじが隠れていないか探したが、見つからない。プラハンで叩いたら少し隙間が開いたので、マイナスドライバーでこじったら外れた。ガスケットががっちり張り付いていた。ガスケットはダメだけれど持っていない。今は液体パッキンで塞いでおいて、改めて交換する。Oリングも次回交換。
 ギアボックスのベアリングは片Zで洗浄・給油できる。アーマチャーのベアリングはZZ。動きがちょっとぎこちないので給油したい。シールドの隙間にスプレーグリースのストローを当てて吹いたら、少しは入ったみたいで手触りが変わった。
 「整流子を磨いてはいけない」とマニュアルに書いてあるが、誘惑に駆られて磨いてしまった。なにか悪いことが起こるだろうか。
 組み立て。ブラシがバネで飛び出すのを押さえながらアーマチャーを入れるのは難しい。手が三本ほしい。何とか入って完成。アーマチャーのカバーが錆びて汚いので、錆を落として塗装した。とてもきれいになった。

下準備 諸々

 クラッチ側カバーと、ついでにカバーといっしょに外れてくる細かい部品類を洗浄。汚れは大したことなかった。ガスケットが張り付いていて外すのに手間がかかった。クランクケース側の後方側に、オイルストーンが入らない狭い部分がある。細いマイナスドライバーで擦って落とした。
 クラッチを組み立てているプラスねじが固くて緩まない。何とか外せたが、二本の頭を壊してしまった。この際なので六角穴のねじに換えよう。
 クラッチの外側に付いているベアリングに少しがたつきがあるので、ついでに交換する。カムのベアリングと一緒に注文。
 フライホイールプーラーが来て、さっそく発電機側を分解。フライホイールは無事外れたが、その下のプレートを止めているねじが噂通り固くて外れない。ひとしきりチャレンジしたがダメなので、ドリルで頭を飛ばした。頭の無いねじを外すのに苦労するだろうと思っていたが、意外にもねじは手で回せた。プレートにねじの頭が強く噛みこんでいたということか。モリブデンペーストでも塗っておけばいいだろうか。代わりのねじは六角穴を使う。ガスケットを剥がして合わせ面を磨く。プレートと他の部品を洗浄。

カムチェーン・スプロケット交換

 コンロッドの開口部からオイルポンプのシャフトが見えるので、ラジオペンチで挟んでスプロケットが回らないか、やってみたがダメだった。素直にクラッチ外してオイルポンプ外して、ギアを固定してオイルポンプ側から回して緩めた。クラッチ・オイルポンプの裏側や細かいところにスラッジが溜まっていたから、掃除できてちょうどよかった。
 カムチェーン周りのスプロケットはそれほど摩耗していない。チェーンは少し伸びていた。いずれもまだまだ使えると思うが、セットを買ったので全部替える。チェーンはYBN製。

クラッチ・オイルポンプ

 オイルポンプのM6ねじが固くて緩まない。なんとか外したが一本壊した。そろそろショックドライバーを買うか。M6のねじ三本を六角穴付ボルトに替えた。オイルポンプのガスケットは、買っておいたガスケットキットに有ったので交換。
 クラッチのM5ねじも六角穴付に交換。

シリンダー・シリンダーヘッド組み付け

 ガスケット・Oリング・カラーがいっぱいあって、確認しつつ組み着け。忘れ物でやり直したりしたが、とりあえずは完成。つぎはクラッチ・発電機・セルモーター周りの組み付け。

仕上げ

 セルモーター取り付け。発電機周り組み立て。クラッチ周り組み立て。キャブレター周り組み立て。

 キャブレターでトラブル発生。フロート室の合わせ目からガソリン漏れ。これは以前から起きていて、そのときはパッキンをひっくり返したら止まったので、それ以上いじらないでそっとしておいた。今回パッキンを新品に交換したが漏れている。元のパッキンに戻しても止まらない。よく見ると合わせ目に隙間が空いている。合わせ面に定規を当ててみると歪んでいるのが判った。両方ともゆがみがあるが、蓋の側の方が酷い。新品のときは漏れなかったから、使っているうちに歪んだのか。
 とりあえず合わせ面を削って平面にする。オイルストーンくらいではらちが明かない。鉄鋼やすり→ダイヤモンドやすり→包丁研ぎ用のダイヤモンド砥石→オイルストーンの順で仕上げた。漏れは止まった。
 再度キャブレター周り組み立て。プラグを着けて、マフラー着けて、オイルを入れて準備完了。

エンジン始動

 いよいよエンジン始動。キックであっけなくかかった。キャブレター調整してアイドリングが続くようにしてしばらく運転。一度止めて、タペットカバーを開けてオイルが来ていることを確認。再度アイドリングで運転。
 セルモーターの調子がとても良い。以前は一回目の圧縮上死点を超える時、ちょっと間が開く感じがあった。今はそんな気配は無く、いきなり調子良く回る。整備してよかった。

試運転

 走行のためステップとカバーを装着。いよいよ試運転。3速で50km/hくらいに抑えて走行。調子良い。中~低速のトルクが増している。これなら後スプロケットを1T小さくしてもいいんじゃないかな。タペット音がうるさいので調整が必要。20kmくらい走って、本日は終了。一応走れるところまで来れた。よかった、よかった。
 排気側のタペットクリアランスが少し大きかった模様。0.05mmに再調整して静かになった。
 何度か走って、クラッチが滑っているのを感じる。初めはそろそろ走っていて気がつかなかった。スロットルを勢いよく開けると滑る。パワーアップした証拠でもあるが、何とかしなくては。

クラッチ

 部品交換かモジュール交換が必要と思うが、まず開けてみて状況を確認する。ついでにクラッチスプリングにワッシャーを入れて圧縮を強くしてみる。

 洗浄と点検。汚れは大したことなかったが、クラッチ板がずいぶん劣化している。40年超だから、こんなものかとも思う。クラッチ板の溝が(たぶん)摩耗片で埋まっていて、マイナスドライバーで削り取った。表面も耐水ペーパーで少し擦ったが、ぼろぼろと言うのがぴったりな様子で、クラッチ板は交換すべきと思う。クラッチ板の厚さはAが2.7mm、Bが3.5mm、スプリングは19.1mmで、いずれも許容範囲内。
 組み立て。厚さ1mmの銅ワッシャーをクラッチスプリングに入れる。

 装着。ロックワッシャーはここまで再使用してきたが、そろそろ交換した方がいいような気がする。オイルは新油を入れて50kmくらいだから再使用。しかしずいぶん黒くなっている。手の届く範囲を掃除したので落ちたスラッジが回っているのだろう。2~300km走ったら一度交換しよう。
 試運転。残念ながら滑る。ちょっとましになったかもしれない。少なくとも悪くはなっていない。部品を手配しなくては。

クラッチ一式をヤフオクで購入~部品取り

2024年5月
 はじめはクラッチ板とロックワッシャーを買うつもりだった。クラッチ板は互換品の三枚セットが千円くらい。ロックワッシャーは純正部品で200円くらい。
 ヤフオクも探した。中古品がいっぱいあるが安いのは程度が悪そうだし、たいていの業者さんは送料をきっちり取るので総額が高くなる。そんな中で新車外しの(おそらく)50cc用が送料込み約3600円で出ていた。これを使えばドライブプレートとウェイト以外を新品にできる。無事に落札できて、届いたものがこれ。新品同様と言っていいだろう。写真には入ってないがロックワッシャーも付いている。

 ヤフオクで買ったものをベースにして、C70のドライブプレート、ウェイトとクラッチスプリングを組み込んだ。スプリングに入れた1mm厚のワッシャーも、そのまま使った。ねじはC70に使っていた六角穴付に替えた。出来上がったクラッチを組み込んで新しいオイルを入れた。
 試運転。すべりは解消した。今から思えば、キックスタートのときに滑って回らないことがあることをもって、クラッチ板の交換を考えるべきだった。

カブの遠心クラッチ

 初めてカブのクラッチを分解して、今まで疑問に思っていたことが解ったような気がする。疑問だったのは、

  • 遠心力で動く錘の力でつながる。では、クラッチスプリングの役割は何だ。

 いろいろな解説、図解などを見ても、シフトのときに切る役割しか思いつかなかった。しかしC50/C70/C90でスプリングが異なる。おそらくC90のスプリングが強い。また強化スプリングが現実に売られていることや、今回やったシムを入れる対処などから、遠心クラッチの働きに影響はあるとも思っていた。今回分解してみて、おそらくではあるが解ったように思う。

  • 遠心力で錘が動いて、クラッチフリースプリングに逆らってクラッチをつなぐ。
  • 半クラッチの状態。この時点では錘の力はクラッチフリースプリングが受けている。
  • 回転数が上がると錘が押す力が増して、クラッチ板がクラッチアウターに突き当たる。クラッチフリースプリングが動くのはここまで。
  • さらに押して、クラッチアウターが動いてクラッチスプリングが縮む。この状態でクラッチスプリングの強さが効いてくる。
  • スプリングが強いとクラッチ板を押し付ける力が強くなる。

エンジン分解整備~完了

 何度か試運転して順調に走っている。エンジン分解整備は一応の完了とする。